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【多項式代数の定義】
多項式が何なのかいつもわからなくなるのでメモ.導入方法はBourbakiにしたがう.

$R$を可換環とする.$R$係数多項式の成す$R$代数$R[(X_i)_{i \in I}]$を以下のように構成する.

まずは,$\mathbb{N}^{(I)}$を自由可換モノイドとする.すなわち,$\mathbb{N}$は集合としては以下のようなものである.
\[
\{ a \colon I \to \mathbb{N} \mid \text{有限個の$i$を除いて$a(i) = 0$} \}
\]
このとき$\mathbb{N}^{(I)}$は各点ごとの和について可換モノイドをなすのであった.これを自由可換モノイドと呼ぶ.

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次に,$M = \mathbb{N}^{(I)}$とし,集合$A$を$A = R^{(M)}$により定義する.すなわち,
\[
A =
\{ f \colon M \to \mathbb{N} \mid \text{有限個の$m$を除いて$f(m) = 0$} \}
\]
である.この集合$A$に代数構造を定め,これを多項式代数と呼びたい.

まずは,多項式の変数$X_i$を定義する必要がある.そのために写像$\delta_{i} \colon I \to \mathbb{N}$を
\[
\delta_i(j) =
\begin{cases}
1 & j = i \\
0 & j \neq i
\end{cases}
\]
と定義する.このとき$\delta_i$は$\mathbb{N}^{(I)}$の元となる.

次に,写像$\varepsilon \colon M \to R$を同様に
\[
\varepsilon_m(n) =
\begin{cases}
1 & n = m \\
0 & n \neq m
\end{cases}
\]
と定義する.このときやはり$\varepsilon_m \in R^{(M)}$である.

そこで,$i \in I$に対して$X_i = \varepsilon_{\delta_i}$と定義する.定義より
\[
X_i(n) =
\begin{cases}
1 & n = \delta_i \\
0 & n \neq \delta_i
\end{cases}
\]
となる.

ざっくりとした言い方をすると,$X_i$は添え字$i$を代数的に自然な方法で$A = R^{(N)}$に埋め込んだものである.なので,これを多項式の第$i$変数と見なすことにする.このように定めた変数の族$(X_i)_{i \in I}$を用いて,$A = R[(X_i)_{i \in I}]$と書くことにする.$R[(X_i)_{i \in I}]$の元を,変数$(X_i)_{i \in I}$をもつ$R$係数多項式と呼ぶことにする.

先に多項式の空間を用意してみたものの,これが本当に多項式と呼ばれるべきものかはまだわからない.$R[(X_i)_{i \in I}]$にうまい代数構造を入れる必要がある.

一旦変数の話は忘れて,$A = R^{(M)}$に演算を定めることを試みよう.$R$は自然に$R$加群と見なせるから,$A = R^{(M)}$は各点ごとの和とスカラー倍により加群の構造を持つ.これを自由加群と呼ぶのであった.したがって,$A$上に足りていない2項演算は双線形な2項演算「積」だけである.

まずは$A$の最も基本的な元である$\varepsilon_m$たちに対して積を定義する.$m,n \in M = \mathbb{N}^{(I)}$に対して,
\[
\varepsilon_m \varepsilon_n = \varepsilon_{m+n}
\]
と定めよう.この対応により,$A = R^{(M)}$上の双線形な2項演算が一意的に定まる.具体的には積は次のような表現される.$A$は自由加群であるから,任意の$a,b \in A$は
\[
a = \sum_{m \in M} a_m \varepsilon_m, \qquad
b = \sum_{n \in M} b_n \varepsilon_n
\]
という形の(一意的な)表現を持つ.このような$a$と$b$の積は
\[
ab = \sum_{m \in M} \sum_{n+l=m} a_n b_l \varepsilon_m
\]
となる.

以上の手続きで$R[(X_i)_{i \in I}] = A$上に$R$代数の構造が定められた.しかしこの構造は本当に多項式と呼べるようなものだろうか.このことについて考えてみる.$R[(X_i)_{i \in I}]$の元を「多項式的」に表現するために,変数同士の掛け算を考えてみる.$\nu = (\nu_i)_{i \in I} \in \mathbb{N}^{(I)}$に対して,
\[
X^{\nu} = \prod_{i \in I} X^{\nu_i}_i
\]
と定義する.この式において$X_i^{\nu_i}$は先ほど定義した式積の意味で$X_i$を$\nu_i$回掛けたものである.また
\[
\lvert \nu \rvert = \sum_{i \in I} \nu_i
\]
と定義する.$X^{\nu}$のことを$R$上の単項式といい,$\lvert \nu \rvert$をこの単項式の次数と呼ぶ.

$R[(X_i)_{i \in I}]$上の積の定義より
\[
X^{\nu} = \varepsilon_{\sum_{i \in I} \nu_i \delta_i}
\]
となることに注意しておく.この表現より,$(X^{\nu})_{\nu \in M}$は自由加群$R[(X_i)_{i \in I}]$の基底を成すことがわかる.したがって,任意の$a \in R[(X_i)_{i \in I}]$は
\[
a = \sum_{\nu \in M} a_{\nu} X^{\nu}
\]
のように一意的に表現される.

先ほどの表現において
特に$I$が有限集合$\{ 1,\dots,m \}$のときは,
\[
a = \sum_{\nu \in \mathbb{N}^{m}} a_{\nu} X_1^{\nu_1} \dots X_m^{\nu_m}
\]
となり,これは$R$係数の$m$変数多項式(だと普段我々が思っている文字列)に等しい.このことから,$R[(X_i)_{i \in I}]$を多項式代数と呼ぶことが正当化してもよさそうだとわかる.

$I$が1点集合の場合には$R[(X_i)_{i \in I}]$を特に$R[X]$と書く.この場合$R[X]$は自由加群$R^{(\mathbb{N})}$上の積を$\varepsilon_k \varepsilon_l = \varepsilon_{k + l}$によって定めたものであり,もっとすっきりと記述できる.

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